青色茶碗

思考回路をクールダウンさせるために更新するブログ。AM0:00~AM8:00の間に投稿することが多いです。

幻想のパクチー香る熱帯夜

まだ18歳の頃。当時好きだった人と、地元のタイ料理専門店に行った。真夏の夜だった。

 

好きというだけで付き合ってはいなかったし、付き合える可能性も限りなく低い、無いと思っていた。明らかに相手からの好意もなかった。完全に私の片思い。いや、そんなに私は相手のことを、恋愛的に思っていただろうか?と、今では思うが。

恋愛的かどうかは定かではないが、私はその好意を隠しているつもりだった。しかし相手にはじんわりと確実に伝わっていたようだ。

私はこの日、タイ料理専門店で相手から「あなたと付き合うつもりは無い」とハッキリ言われ、分かってましたよ顔を作って受け止めたが、心が揺れたことも、相手には伝わっていたのかもしれない。それを指摘されなかったのは、相手の優しさだろうと思う。

 

承知した上で食事をした。私の退職を祝う会だった。

当時、仕事のストレスで小学生並みの体重になってしまうほど危険な状態だった私にとって、ある意味忘れられない日になった。

 

私はパクチーが食べられないが、相手はパクチーが好きだったので、9割パクチーだけで構成されたサラダを注文し、9割を相手にあげた。

パクチーの香りが漂う中で、近況やこれからのことを話した。

 

相手と相思相愛になれないことが確定したし、確定する前から、私には他にも気になっている人がいた。当時は誰かを常に好きでいないと、寄りかかっていないと、自分を保てなくなりそうなほど、弱っていた。

もう1人の人とは知り合って間もなかったが、私が書いてしまう長文メールにも引くことなく、しっかり返信をしてくれて、何度か食事に行ったりもしている仲だった。

パクチーの香りが漂う中、その人のことを、相手に話した。

「いま食事に誘われてるんです。でも、なんか、飽きちゃったかもしれないです」

飽きてるというのは嘘だった。全然好きだった。仮にその人からの好意が一ミリもなかった場合に、傷つくのが怖くて張った守りだった。

相手は食い気味に返してきた。

「何を言うか!相手から来てるなら行きなさい!相手に興味持たせといて飽きちゃったとか、都合よすぎるわ!そんな長文送って大丈夫な人なんぞ滅多にいない!行きなさい!食事!」

この後、その人とは食事に行ったが、まもなく彼女が出来て、それから2人きりの食事に行くことを拒否されたため、気まずくなり疎遠になった。

背中を押してくれたパクチー好きの相手とも、今は連絡が途絶えている。

 

でも後悔も何も無い。思い出すだけで。どちらかというといい思い出だ。嫌なものではない。

振られて傷つくのが怖いから嫌いになりたい、みたいなひねくれた守りは自分勝手なことだと学んだ。それでも不安になることはあるけど、なるべく恐れは感じすぎずに、素直に生きていこうという気持ちは持っている。

 

あのパクチー9割サラダを食べたお店も今は無くなっている。時は進み続けていく。

 

まだ部屋が青白い明け方に暑さで目が覚めると、ジメジメした空気の中に、ほんのわずかながら、あの日の記憶が蘇ることがある。目の前に広がっていたパクチーと共に。